SO夏季世界大会・アブダビ 日本選手団最終合宿

いよいよ、スペシャルオリンピックス夏季世界大会が2019年3月14日~21日にアラブ首長国連邦の首都アブダビで開催される。本番を目前に控えた2月9日~11日、日本選手団の最終合宿が東京で行われた。その模様をレポートする。

アルバルク東京とのコラボ “Special Olympics day”

最終合宿2日目の2月10日、男女バスケットボール日本選手団はアリーナ立川立飛で1日を過ごした。アリーナ立川立飛といえば、昨シーズンのBリーグチャンピオン、アルバルク東京のホームアリーナ。この日、アルバルク東京の全面的な協力を得て、SOバスケットボール日本選手団を応援するイベント、題して”Special Olympics day”が開催されたのだ。

午前中はアリーナのとなりにあるドーム立川立飛で練習を行った。選手団は昨年9月の愛知大会後に選出され、全員が集まっての練習は合宿でしかできない。

「3回目の合宿で、ようやくふざけ合えるくらいチームがまとまってきました」と語るのは男子チームを指導する井上祐介コーチ。確かにパス回しの練習でもボールを呼び込む大きな声が出ていた。女子チームもしっかりコミュニケーションが取れているのがわかる。

合宿も回数を重ね、練習でも息の合ったところを見せていた
「まずは安全に帰って来ること。そしてせっかくいただいた機会なので力を発揮させたい」と井上祐介コーチ
「どうすれば伝わりやすいかを考え準備して、しっかり伝わったときはうれしい」と初田文隆コーチ

午後、いよいよメインアリーナに乗り込む。選手団が「SO夏季世界大会・アブダビ」の各壮行イベントに登場する”Special Olympics day”のスタートだ。

「アルバルク東京 vs 滋賀レイクスターズ」の試合開始は15時05分。13時半には観客の入場が始まる。SO代表選手団は、開場前の運営スタッフミーティングにも参加し、独特の緊張感をともに味わった。

14時15分、アリーナを埋めたブースターたちが試合開始を待つ中、デモンストレーションゲームが始まった。これは、SO日本代表メンバーとアルバルク東京ユースチームのメンバーが、2つの混成チームに分かれて10分間の試合を行うもの。知的障害のある人とない人がチームを組んで一緒にプレーする「ユニファイドバスケットボール」だ。さらに、アルバルク東京OBで元バスケットボール男子日本代表の渡邉拓馬氏も一緒にプレーした。

U15メンバーはリストバンドを着けたが、障害のありなしなど意識させない試合内容だった

ハーフタイムショーでも情報発信

Bリーグの試合が始まると、大迫力のゴール裏観客席から応援した日本選手団。前半が終わると再びコートに登場した。ハーフタイムショーで、SO男女バスケットボール日本選手団の紹介が行われたのだ。

団長として大会にかける意気込みを述べる有森裕子理事長

大熱戦になった試合は、70-65でアルバルク東京の勝利に終わる。試合終了後のMVPスピーチに続き、再びがコートに登場し、壮行セレモニーが行われた。

「日頃の練習の成果をアブダビ世界大会という舞台で出して、精一杯頑張ってください」とエールをおくるアルバルク東京・正中岳城キャプテン。たくさんの来場者からの寄せ書きが添えられた2枚の応援旗が授与された

日本選手団はアルバルク東京の選手たちとハイタッチをして、割れんばかりの大きな拍手と声援を受けながらコートから退場。こうして大成功のうちに”Special Olympics day”は終わった。

アルバルク東京の選手たちからもらったエールは一生の宝ものだ

それぞれの思いを胸に

この日のイベントについて、インタビューした模様をまとめる。

廣はるかさん(女子バスケットボール・アスリート)

(Bリーグは)とても面白い試合でした。滋賀出身なので両方応援していました。(女子チームは)お互いに経験を分かち合える、すごく楽しいチームです。アブダビもこんな雰囲気かもしれないので、緊張します。周りのたくさんの人に支えられているので、感謝を伝えるためにも金メダルをとりたいです。

土井隆平さん(男子バスケットボール・アスリート)

(ユニファイドは)コミュニケーションをとってできたと思います。中学生ですけど、上手かったです。自分にとっては最後の世界大会になるかもしれないので、悔いが残らないように、合宿でやってきたことを出し切って、みんなでいい結果を残したいです。

渡邉拓馬さん(アルバルク東京OB/元バスケットボール男子日本代表)

誰とでもつながれるのがスポーツの素晴らしさだと思います。今日、ユニファイドの試合を観たブースターにも、選手たちの表情などからそれが伝わったと思います。友だちでも家族でもいいので、少しでも話題にしてくれたらと思います。僕も中心になって情報を発信して、認知度を高くしていきたいです。僕も一緒にアブダビに行って、アスリートたちに「楽しむ」ことの大切さを伝えていきます。選手たちにとっても自分にとっても、成長できる経験になると思います。

有森裕子(スペシャルオリンピックス日本理事長)

アスリートたちが、堂々とプレーしていたのが嬉しかったです。ユニファイドの試合を実際に観てみて、観客のみなさんにも(知的障害があっても)こうやって一緒にプレーできるんだ、コミュニケーションをとるのに尻込みしなくていいんだってことがわかってもらえたと思います。「障害」は、障害者が持っているものではなくて、「彼らにはできない」という固定観念とか、社会の形こそが「障害」なんだと気づけるのがユニファイドのいいところ。このような場を増やして、「普通ってなんだろう」というメッセージを送っていきたいと思います。いいプレーはいいイメージから生まれてくるものだと思いますので、アスリートにとって今日の経験は大きいと思います。これ以上はない最終合宿になりました。

チームの結束を作っていきたい

翌2月11日は、練習場所の一つである帝京科学大学(東京都足立区)を訪ね、いくつかの競技について取材した。

陸上競技はアスリート6人とコーチ2人が海を渡る。1500m、800m、4x100mリレーに出場する土橋龍さん(SON山口)に、アブダビ大会の目標を尋ねると、「メダルを持って帰ること」と即答した。特に譲れないのは得意種目の1500mで、愛知大会で出した自己ベストを上回るほど調子が上がってきているという。口数は少ないが、ウォーミングアップのランニング後に「速かったでしょう?」と尋ねてきた口調に自信がみなぎる。

福薗翔コーチ(SON鹿児島)にも「ゴール」を聞いたところ、「陸上は個人種目なので、なかなかみんなでワーっとまとまる感じがないんですね。大会を通じてチームとしての結束みたいなものができると楽しい経験になると思うので、それを目指します」という答えだった。

福薗翔コーチ(左)と土橋龍さん(右)
明るさいっぱいの陸上競技選手団

最後まであきらめなければオッケー

体育館に移動すると、バドミントン選手団に話を聞くことができた。今回はアスリート3人とコーチ1人で臨む。

アスリートの藤川麻衣子さん(SON滋賀)の目標は、「あきらめずに一生懸命がんばること」。難しいことですができていますか?と聞くと、「はじめはすぐにあきらめてしまっていましたが、教えてもらって、練習して、少しずつできるようになってきました」としっかりした口調で答えてくれた。

小宮山幸治コーチ(SON岡山)に聞くと、「藤川さんはムードメーカー。今回、3人の選手には最後まであきらめないで、全力で一歩を踏み出すようにと話をしました。それだけやってくれればオッケー。結果はついてきますから」と陽気に語った。

藤川麻衣子さん
この日は早朝からの雪で、外のコートが使えないテニス選手団もバドミントン選手団に合流していた

僕は一番頼りにしています

別のフロアへ移動すると、体操の松岡薫さん(SON宮城)が今まさに「通し」で演技を行おうというところだった。跳躍、回転、バランス……と、丁寧に技を重ねていく。指先から足先まで美しく伸びた演技だった。

「愛知大会は、アブダビ大会の選考を兼ねたものだったので、勝ちたいという気持ちが強くなり、あまり楽しむことができませんでした。今回のアブダビ大会では楽しみたいと思います」。松岡さんは、目標を尋ねた私に対して、体操の演技と同じように、きっちりと丁寧に答えた。

松岡さんとともにアブダビへ行く幸地良介コーチ(SON東京)に、松岡さんの選手としての特徴を尋ねると、「初めてみた時は、ずいぶんきれいなお手本を見せるコーチがいるなと思いました。それくらいきれいな演技をします。しかも体操を始めたのが一昨年だというで、またびっくりでした。自分のやり方を持っていて、完成形に向けて黙々と準備して努力する選手です」と、信頼を寄せる。

それだけに、アドバイスをすべきタイミングを間違わないように注意しているとのことで、「自分なりに、なんとなくわかってきたんじゃないかなと思っています」と幸地コーチが言えば、「僕は一番頼りにしています」と松岡さんが幸地コーチに目をやる。二人が信頼関係で結ばれているのがよくわかった。

幸地良介コーチ(左)と松岡薫さん(右)

卓球はいろんな人と対戦できるのが楽しい

今回の取材の最後を飾るのは卓球選手団。アスリート2人、コーチ1人の3人。五味律子コーチ(SON宮崎)いわく、「私は普通に『こうしなきゃいけない』と真面目にやっているんですが、古川(拓実)追加スタッフは場を和ませてサポートしてくれ、役割分担ができて、チームワークがいい感じになった」そうだ。

アスリートの薄井えりかさん(SON栃木)は、8年前のアテネ大会以来、世界大会への出場は2度目となる。ブロックやサービス、コース戦略を得意とし、前回は金メダルを持って帰ったという。
「今回の目標は粘ること。ラリーで粘るのもそうだけど、気持ちで粘りたい。メダルはとりたいです。卓球はいろんなタイプの人と対戦できるのが楽しい。世界の選手とできるのが楽しみです」と、経験豊富な実力者らしいコメントが聞けた。

五味コーチもSONの活動歴24年というベテランだが、子育てなどもあってこれまで海外大会に手を挙げることはなかった。初めての派遣となる今回、「選手の健康を第一に考えたい」と真面目に決意を述べていた。

薄井えりかさん(左)と五味律子コーチ(右)

この日の午前中で最終合宿は全日程が終了、選手団はそれぞれ帰路についた。3月7日の結団式までは、各自で最後の準備を進める。


取材・文=ライター菅野