2019年スペシャルオリンピックス夏季世界大会・アブダビ日本選手団結団式

いざ、アブダビへ!――2019年3月7日、スターライズタワー(東京・港区)にてスペシャルオリンピックス夏季世界大会・アブダビに参加する日本選手団結団式が行われた。その模様をリポートする。

誇りと責任感、そして緊張

東京タワーのすぐ近く。特設された結団式の会場に集まったアスリートたちの表情には、期待と不安が交錯していた。
張り詰めた空気の中、主催者を代表して、有森裕子スペシャルオリンピックス日本理事長が登壇した。

「久しぶりに、日本選手団団長としてアスリートたちと一緒に現地に行きます。毎日練習を積み上げてきたことでも、やはり本番は緊張します。そんなとき、応援してくださる方、支えてくださる方を思い出せば、それが力となって選手たちの表情を自信に満ちた笑顔に変えてくれると信じております。初めての世界大会という選手もたくさんいますが、皆さまの全力の応援を選手に向けていただけたら、きっと全員が笑顔で帰って来られると思います」と、力強く応援を呼びかけた。
続いて、ご臨席賜った高円宮妃殿下、アラブ首長国連邦特命全権大使のカリド・オムラン・アルアメリ氏、文部科学省副大臣・浮島とも子氏から祝辞をいただき、スペシャルオリンピックス支援ワーキングチーム(国会議員団)が紹介された。

いよいよ、アブダビへと旅立つ日本選手団紹介。紹介役を務めるのは5人のドリームサポーター。
森理世さん(「ミスユニバース2007世界大会」優勝)、小塚崇彦さん(フィギュアスケート バンクーバーオリンピック出場)、平岡拓晃さん(柔道 ロンドンオリンピック銀メダリスト)、山口素弘さん(サッカー元日本代表 名古屋グランパスアカデミーダイレクター)、渡邉拓馬さん(バスケットボール男子 元日本代表)。
ドリームサポーター5人が登壇すると、圧巻だ。5人はそれぞれが受け持つ競技の選手団の名前を次々と読み上げた。ステージ前に着席していた選手団は、自分の名前が呼ばれると、スッと起立する。その様は、選手団の一員として誇りと責任を噛みしめるようだった。
11の競技に出場するアスリート67名、コーチ28名、パートナー7名の名前を呼び終える。そして「副団長ソーントン・フランク、団長・有森裕子。以上、日本選手団104名。一同礼!」と司会者が大きな声で号令する。すると、選手団は全員が揃って一礼をする。場内は割れんばかりの拍手に包まれた。

ドリームサポーターからの嬉しい激励

続いて、ドリームサポーターの5人から応援メッセージが送られた。

森理世さん(「ミスユニバース2007世界大会」優勝)

2019年この大会の思い出は皆さんの心に永遠に残り、皆さんの自信となり、いろんなことが良い方向に向かうことを願っています。アブダビはきっと魔法をかけてくれるような場所だと思います。私はいつも「結団」式を「団結」式と読み間違えてしまいます。でも、結団式は心を一つにする団結式でもありますよね。皆さんの情熱と思いと誇りを、世界中の皆さんに見せてください。

小塚崇彦さん(フィギュアスケート バンクーバーオリンピック出場)

皆さんに贈る言葉は「がんばってらっしゃい!」の一言なのですが、森理世さんがおっしゃったように団結できたらいいなと思いますので、声を揃えて言っていただけますか?では行きます! がんばるぞー! (一同)おー!

平岡拓晃さん(柔道 ロンドンオリンピック銀メダリスト)

第1回の合宿のときに皆さんにお会いしたのを憶えていますか? (選手団から「はい」)ありがとうございます。そのときに話した内容を憶えていますか? (選手団沈黙、場内笑い)……へこたれません。大丈夫です。もし、遠い地で不安になったら、練習してきたことや応援してくれた人のことを思い出して、自信を持ってがんばってください。大会後に、そういえば平岡がなんか言っていたなと思い出してもらえれば満足です。

山口素弘さん(サッカー元日本代表 名古屋グランパスアカデミーダイレクター)

私は、昨年サッカーのユニファイドフットボール・シカゴにサポーターとして参加しました。そのときの合言葉が「笑顔と感謝」でした。今、皆さんはいい笑顔ですので、競技でもその笑顔を見せてください。そして、大会に参加できること、応援してくれる方に感謝をしながら全力を尽くして、終わったあとにも笑顔を見せてください。

渡邉拓馬さん(バスケットボール男子 元日本代表)

スポーツはすべての人をつなげると思いますので、精一杯自分のパフォーマンスをして、日本に、いや世界中に幸せな空気を吹き込んでほしいと思います。僕も現地に行きます。一緒にがんばりましょう。

「社会の誰もが大切」の精神で支え合う

日本選手団がこの大会に参加するにあたり、多くの企業がサポートをしている。たとえば、結団式が行われているこの会場を提供するのは、パソナグループ。選手が着用するウェアもSONパートナー企業の提供によるものだ。
2002年からスペシャルオリンピックス日本を支援しているというファーストリテイリング。(株)ファーストリテイリング グループ執行役員・堺誠也氏が登壇し、今回、選手団に提供した「ユニクロ」のユニフォームを説明した。そして、「最高の経験。たくさん楽しんできてください」と激励のメッセージをおくった。

アウターの背中、右肩上がりの筆記体「Japan」の文字は、ダイナミックな動きと進化を表現。アクセントカラーの赤は日の丸をイメージしている。アスリートモデルは、錦織彩乃さん(女子バスケットボール)と八木利郎さん(ボウリング)

続いてアシックスジャパン(株)のプロダクトプランニング部マネジャー・岩崎俊一氏が登壇。今回は、競技場への移動などの際に着用するスポーツウェアと、7競技のゲームウェアを提供する。現地の気候、機能性や快適性を考慮したというアイテムの特徴を説明し、「コンディションを整えて、ベストの成果を出してください」とエールをおくった。

サラッとしたストレッチ素材を使用し、汗処理も万全のスポーツウェアとゲームウェア。アスリートモデルは手嶋大河さん(競泳)と石山裕太さん(サッカー)

スペシャルオリンピックスのプログラムは、熱心なアスリート、多くのボランティア、そして支援企業・団体が一体となって活動することで成立している。そこには「社会の誰もが大切で、社会の誰もが主役」という、精神がある。
この結団式でそれを象徴していたのが、「応援フラッグの披露」だ。各企業・団体の名前が紹介されると、アスリートがそれぞれの企業・団体から贈られた寄せ書きの入りの応援フラッグを掲げながら入場し、場内を回った。

イメージとしては、「大相撲の懸賞幕」。面白いアイディアだ。紹介された企業・団体は、ナショナルパートナーの(株)ユニクロ、トヨタ自動車(株)、日本コカ・コーラ(株)、(株)AOI.Pro、ソフトバンク(株)、アシックスジャパン(株)、ソニー生命保険(株)、(一社)日本ライオンズ。そしてプレミアスポンサーの日本ケンタッキー・フライド・チキン(株)、日本航空(株)、三井住友海上火災保険(株)、エニタイムフィットネス、(株)スリーボンド、ブラザー工業(株)、テクノプロ・ホールディングス(株)

続いて、支援企業・団体を代表して、ナショナルパートナーであるトヨタ自動車(株) 社会貢献推進部部長・朽木英次氏が登壇。ラグビー日本代表選手として30試合に出場し、トヨタ自動車の監督も経験した朽木氏。
「大切なことは2つ。1つは、全力を尽くすこと。もう1つは、『利他の心』を持つこと。両親やコーチや対戦相手の気持ちになって考えよう。がんぱれニッポン! がんばれアスリート!」と、最後はスポーツマンらしい、気合の入ったエールをおくった。

チェストー!さあ元気よく出発だ

結団式も大詰め。選手団を率いる有森裕子団長へ、スペシャルオリンピックス日本三井嬉子会長から、スペシャルオリンピックス日本旗が授与された。

続いて、アスリート、パートナー、コーチそれぞれの代表が登壇し大会に向けての決意表明を行った。

松野遼さん(男子バスケットボール アスリート)

日本選手団に選ばれたことを誇りとし、日々練習してきたことを発揮できるように、私たちはそれぞれの「Reach Your Goal」を目指してがんばります。そして、世界の多くの人々と出会い、友情を深めることを楽しみにしています。

吉田彩さん(ボウリング アスリート)

世界の人たちと一緒に、楽しく投げてきたいと思います。応援よろしくお願いします。

小山光さん(サッカー パートナー)

僕たちパートナーは、いい意味で遠慮をしません。アスリートと同じく、パートナーも全力を尽くします。個人的には、この場に立てるよう協力してくれた会社のみんなや友人や家族への感謝の気持ちを忘れずに行ってきたいと思います。

福薗翔さん(陸上競技 コーチ)

選手団の中で最年少のヘッドコーチということで、だいぶ緊張しているのですが、アスリートがベストを尽くせるように全力でサポートします。また最初から最後まで笑顔でいられるように、「Reach Your Goal」を胸に頑張ってきたい。最後に鹿児島風に応援したいと思います。では、声を揃えてお願いします。日本選手団、キバレ!せーの(選手団)チェストー!
終始、緊張感が漂っていた結団式だったが、最後の最後に「元気者」の福薗コーチが場を盛り上げた。三井嬉子スペシャルオリンピックス日本会長が閉会の辞を述べた。

選手団への激励と、すべての関係者に感謝の気持ちを伝えた三井会長
選手団はハイタッチと大きな拍手に包まれながら退場した
司会進行を努めたアンドレア・ポンピリオ氏とレイチェル・チャン氏

こうして、結団式は無事にお開きとなった。選手団はこの会場で夕食をともにした後、成田空港から中東へと旅立った。
190の国と地域から約7500人ものアスリートが集まるアブダビ大会は現地時間で3月14日(日本時間15日)に開会式を迎える。

撮影時の掛け声は、福薗コーチが提唱した「チェストー!」

取材・文=ライター菅野