【第2回】オーストリア大会に向けて

3月18日から25日まで開催される冬季世界大会・オーストリア。開催が目前と迫るなか、日本選手団を率いる大和田誠団長(SON参与)とテクニカルアドバイザーの阿部雅司氏へ、世界大会に向けた日本選手団の決意を聞きました。


「スペシャルオリンピックス冬季世界大会・オーストリア 日本選手団」左から、
大和田誠 日本選手団団長(SON参与)
阿部雅司 テクニカルアドバイザー(1994年リレハンメルオリンピック複合団体金メダリスト)

─ いよいよ冬季大会が始まります。チームの準備状況はいかがですか?

大和田 今回の日本選手団は昨年新潟で行われたナショナルゲームに参加した全国の選手団から選考された81名で、アスリートとコーチは、同じ地区から選出している訳ではないので、ほとんど初対面の関係から日本選手団は始まります。その為、日本選手団としてのまとまりやアスリートとコーチの距離感を縮める為に昨年の2016年9月頃からオリエンテーションや競技別合宿を行い、競技力向上と併せてチームワークを高めてきました。

─ 日本選手団の気持ちの盛り上がりなどはどうですか?

阿部 昨年の事前合宿でも、みんなモチベーションが高いなっていうのはすごく感じましたね。代表になったっていう責任感を感じていると思います。

大和田 アスリートとコーチたちには、日本選手団ユニホームが届いているので、「いよいよ世界大会だ」と盛り上がっていると思います。

阿部 そうですね、親御さんの方がテンション上がっていると思いますよ。

大和田 今、アスリートは地元の自治体や市長の方々に表敬訪問に行っていたりするので、気持ちも高まっているでしょうし、プレッシャーも感じているとは思います。

─ 今回、阿部雅司さんにテクニカルディレクターとして日本選手団として参加されることになりましたが。

阿部 数年前からスペシャルオリンピックス日本 理事長の有森裕子さんと北海道でお会いするようになり、その時にスペシャルオリンピックスの活動についてのお話を聞き、それが一つのきっかけでスペシャルオリンピックスの活動に参加するようになり、今回、日本選手団として一緒に世界大会に参加させていただくことになりました。

オーストリアという地は、自分の第二の故郷のようなところです。30年くらい前から夏、冬と日本代表時代から行っているところなので、土地勘もありますし、コーチが困ったりしたら、手助けできる自信はあります。雪上競技のアスリートたちにはアドバイスや、ワックス掛けなどでサポートできたらと思います。

阿部雅司(あべ・まさし)
テクニカルアドバイザー/1994年リレハンメルオリンピック複合団体金メダリスト

─ 現役時代とは違う、指導者としての喜びもありますか?

阿部 現役を引退してからソチオリンピックまで19年間、オリンピックの日本代表コーチとしてやっていました。オリンピックに出るほどの選手は、普段は放っておいても問題なく、調子が悪くなった時に、ちょっとアドバイスをして、安心して選手が試合に臨めるよう、サポートをする感じで接していました。

大和田 私は2013年スペシャルオリンピックス冬季世界大会・ピョンチャンの時に副団長という形で、初めてスポーツをやる側ではなく、サポートする側の経験をしましたが、やはりこの両面でスポーツというのは楽しいものですね。サポートをしたアスリートたちの喜んだ笑顔や結果がはっきり出るからでしょうね。

阿部 スペシャルオリンピックスのアスリートと一緒にクロスカントリーの練習した際、上手に滑れたり、早く走れたりした時の笑顔は新鮮で、今までなかった喜びで嬉しいですね。また、選手の時にはあまりそういうのは分からなかったですが、ぼくもコーチになって、初めて分かった部分があります。選手時代に、いろいろな方々に支えられて試合に出ているんだっていうのが分かれば、更に頑張れたかもしれないですね。

─ 日本選手団に期待したいことは何ですか。

大和田誠(おおわだ・まこと)
スペシャルオリンピックス日本選手団団長/SON参与

大和田 毎回の合宿でコーチ陣に申し上げている私の思いがあります。スペシャルオリンピックスのアスリートが持っているスポーツに対する潜在能力は、今顕在化している能力との間にものすごく幅があると思っています。私達は、勝手に自分の能力の限界を決めてしまう所がありますが、そういうものがスペシャルオリンピックスのアスリートにはない。だから、びっくりするような結果が出る時があるんです。コーチたちにはアスリートたちの潜在能力を引き出してくれたらいいなと思います。

2015年にロサンゼルスで開催されたスペシャルオリンピックス世界大会の時に、最初は練習にもついて行けなくて、チームの輪の中に入っていけなかったアスリートがいました。そのアスリートは事前合宿などでどんどん力と自信を付けていき、日本出発前の日本選手団結団式の時には表情もガラッと変わっていて、大舞台での試合も堂々とプレーするまでになりました。潜在能力が引き出されたんです。それを引き出したチームメイトたちもすごかったんです。同じような光景をほかでも何度も目にしました。スポーツでの成功を美談として見るのはあまり好きじゃないけれど、そういうところに私は感動しますね。

阿部 やはり海外に行くと、環境もがらりと変わりますから、精神的にも成長するんでしょうね。
2年前にクロスカントリーを一緒に練習している北海道のアスリートがいて、私から少しでも技術を盗もうと、頑張ってついてきたアスリートが今回の日本選手団に選ばれて一緒に世界大会に行くことになったので、頑張ってもらいたいですね。

大和田 今回の日本選手団のテーマは「勝利」ですが、それはそれぞれの潜在能力を出し切るということで、日本選手団全員がその「勝利」をつかむことを期待しています。阿部さんと一緒になって全力でサポートします。


インタビュア:小川朗(スポーツジャーナリスト)