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【第6回】SONナショナルミーティング2017開催

来年スペシャルオリンピックス日本(以下SON)夏季ナショナルゲームが行われる愛知で8月5日、全国地区組織をはじめとした関係者が一堂に会する「SONナショナルミーティング2017」が開催された。


会場となった名古屋学院大学翼館4Fクラインホールは、全国から集まったアスリートやそのファミリーの熱気が充満していた。司会進行は地元愛知のアスリート・田中寛大さんとパートナーの上古代健太郎さん。手作り感いっぱいのオープニングは、まず名古屋学院大学・家本博一社会連携センター長の開会あいさつ。

続いてSON有森裕子理事長の基調講演が行われた。
演題は「私とスペシャルオリンピックス活動」。有森理事長自身、子供の頃から母親が地域の養護施設で事務職をしていた関係で「自分たちより不便さを持った人たち」と行動を共にする機会も多かったという。さらに中3時に特別学級が初めて設立され、10人の知的に障害のある生徒と机を並べた。「ただ、そういう人たちがどう生きて、どう生活をしているかということを、知る機会はなかった」と、当時を振り返った。

2002年にSONの細川佳代子理事長(当時)からドリームサポーターへの誘いを受けたことが活動に入るキッカケ。それまではSONの存在すら知らなかったが「知的障害がある人は、わざわざ組織を作って、その組織がその場を作ってあげないと、スポーツする場が少ないことに驚いた」と言う。 さらにこう続けた。
「世界大会への日本選手団選考を兼ねた国内大会があることも知りました。私はただただ、同じ人間として生まれて、いろんな可能性を引き出すことが出来る「スポーツをするチャンス」が少ない、ということに対して『出来ることがあれば、やらせていただきます』とお答えしました」。

 2008年から理事長を務め、9年目。「知的障害のある人達は、スポーツをする機会が欲しいと発信することができない。それは機会を提供する組織(SON)がやるべきこと」と熱い思いを明かした。
「ただ、(SONが)永久に続いていいとは思っていない」とも明かした。
「いつかこういう組織がなくても、すべての人が普通に共存・共栄ができる社会になることが目標です」とゴールを語った。  

また、自身が先天性股関節脱臼だったことを告白。母親がたまたま読んだ新聞記事により早期発見できたという。その後半年間、両足に矯正バンドをはめ固定された。医師からは「かなり不安定なので、きちっと生活できるかどうかわからない。20歳まで検査する必要がある」と宣告された。
「でもこの後ラッキーだったのは、『健康でさえあればいい』という両親を通じて、学校にも行き、運動会も参加し、友達と遊ぶ機会もあった。いろんな機会といろんな出会いをもらったことで、変化を起こして来られた」。
そして、アメリカの黒人女性司会者として成功したオープラ・ウィンフリーの「幸運とは、準備が機会に出会うこと」という言葉を紹介。「不幸なのは準備が機会に出会えないこと」と想いを語った。

「同じように生まれてきたのに、やらせてもらえる機会がないから変化を生み出せなかった。機会さえあれば、彼らは変化していけるはずなんです。このSOに障害のある人に少しでも参加していただいて、変化を一緒に生み出していきましょう。彼らに対しても、自分たちに対しても、社会に対しても」。
来年の愛知大会を一つのキッカケにして、全国にその輪を広げていく。有森理事長の言葉は、最後まで熱かった。

プログラム2の、アスリートストーリー全国発表会には、13人が参加。「スペシャルオリンピックスと私のチャレンジ(挑戦)」のテーマでスピーチした。
アスリート自らがスペシャルオリンピックスについて自分の言葉で発信するための研修プログラムの一環だ。
いずれも中身の濃いものでスピーチのトップバッターは、岩手・SON住吉谷穂佳さん。

緊張する様子もなく大きな声で話した。アスリートのそれぞれがフルマラソンを完走した体験や、現在取り組んでいる競技への思いを熱く語り、客席からは大きな拍手が送られた。
選考の結果、第1位に輝いたのはSON・島根の安田翔飛さん。  

中学では「知的(障害)の子が部活に入ると教師の数が足りなくなると言われ、放課後に何もすることがなかった時にSON・島根に出会った」とそれまでの経緯を告白。「今はSOの活動が僕の居場所になり、辛いことがあっても頑張れるようになりました」と続けた。
有森理事長の言葉にも強い影響を受けたという。「理事長が2014年夏季ナショナルゲーム・福岡で話した、『人間は、どんなものを持って生まれようが、可能性を無限に秘めた生き物だ』という言葉が胸に刺さりました。これからはナショナルゲームで優勝して、世界大会で活躍する選手になりたいです。僕は今こうやって話せていますが、小学校の時は人前に出ることが苦手でした。でも今はこうやってできるようになりました。僕にとってSOは宝物です」という見事なスピーチに、客席からも称賛の声が上がっていた。

次に行われたのが、ヘルシー・コミュニティーの発表。これは知的障害のある人の健康を増進し→スポーツする際のパフォーマンスを向上させ→彼らを取り巻く人々の理解を深めることにより→知的障害のある人の生活を向上させる。この流れを作ることを目指している。
今回は北海道教育大学函館校と名寄市立大学の協力のもと、SON・北海道で取り組んだプログラムが発表された。

実際に参加しているアスリート(角田亮太さん、小澤彰太郎さん)とパートナー(藤森柊さん、塩崎日奈さん)がその内容を説明した。
健康診断と歯科検診などを行い、健康への意識を高めてから、ピーマンを食材に使った料理教室を開催。食事の後は正しい歯磨きの指導をうけるなど、流れを重視した活動内容だ。
次のプログラムでは、インドネシアからの留学生である19歳のファラン・アランドラさんが登壇。13歳の時から“ユースアクティベーション”のインドネシアでのリーダーを務めている。

ユースアクティベーションとは「障害の有無に関わらず、一人ひとりが、その人らしく生活をしていくために、社会には何が必要か」を学生と知的障害がある人がともに考え、障害者への理解を深める活動を企画・運営するプログラムのことだ。インドネシア社会が知的障害者に対し、壁を設けている現実も指摘。その壁を壊すために、若者たちは大人の支援を受けながら地域社会で声を上げ、発信しているという。
 2011年のスタート時には、たった10人だったユースリーダーは現在1700人以上。様々な活動をユニファイド(知的障害がある人とそうでない人が一緒に活動すること)で行っている。
また、アジア太平洋地域各国における具体的な活動を紹介。「私たち若者は、壁を打ち破る準備ができています!」と力強く締めくくった。

最後は“ファミリーストーリー”の発表会。これは「スペシャルオリンピックスがアスリートにくれたもの」をテーマに、全国から選抜された4人のファミリー(アスリートの家族)がスピーチを行うもの。

SON・熊本の吉田祐一さんは小学校時代に不登校気味だったお子さんが、笑顔を取り戻し、ボウリングで250のハイスコアを出すまでのストーリーを披露。「その理由は、SOがアスリートにとって安心できる居場所だからということに気付いた」と明かし、大きな拍手を浴びていた。

今回のナショナルミーティングの盛り上がりは、来年、同じ愛知で行われる「夏季ナショナルゲーム」の大成功を予感させるに十分だった。