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【第4回・後編】スペシャルオリンピックス日本会長 三井嬉子「SONに関わるキッカケと熱い思い」

第4回は今年3月2日、「日本障がい者スポーツ協会特別功労賞」を受賞したスペシャルオリンピックス日本の三井嬉子会長にインタビュー。草創期からの歩みを、たっぷり語ってもらった。


三井嬉子(みつい・よしこ) / スペシャルオリンピックス日本 会長
スペシャルオリンピックス日本設立以来、すべてのスペシャルオリンピックス世界大会、ナショナルゲームに参加。現在に至るまで、様々な形で活動の中心となり、発展の一躍を担っている。 また以上と並行し、スペシャルオリンピックス日本・東京の副理事長に就任していたことから、地区組織の運営や日常スポーツプログラムの実状についても精通している。

─ 前回(前編)のインタビューでは、24年間この活動を続けられてきたモチベーションについてうかがいました。

三井 人が幸せを実感するのはどんな時かと言うと、1つ目は、志を同じくする仲間と一緒にいる時。2つ目は、その目的がどんなに小さなものであっても、目的に向かって夢中になって努力している時。3つ目は、人に感謝され、誰かの役に立っていると実感できる時。最後の4つ目は、将来に明るい希望が見える時だと言われています。SOの活動は1から4までの全てに合致しており、実際私はSO日本の未来は非常に明るいと確信しております。

─ この4つがすべて当てはまるわけですね。

三井 大変な事も沢山あるのにスペシャルオリンピックスの活動を途中で辞める方は少ないです。普段は自分の仕事をしながら、コーチやボランティアとしてアスリートの指導や運営のために、継続的に時間を割くことは本当に大変な事だと思いますが、アスリートたちは待っていますから、休まない。こうして続けられるのは、きっとアスリートと過ごす時間が本当に楽しくて、この活動には意味があり、必要な事であるという想いが強いからだと思います。ボランティアの多くの方が何かしてあげようと思って参加したけれど、「与える」つもりが、実際にはアスリートから「与えられる」ことの方が多いとおっしゃいます。アスリートだけではなく、ボランティアを含め、関わる全ての人を変える。SOにはそんな不思議な力があります。

─ 活動してきた中で、何かエピソードはありますか。

三井 20年以上もかかわっておりますと、苦労した話、楽しい話、面白い話、感動する話は山のようにあって選ぶのは難しいのですが、アスリートの特性をよく表しているエピソードを紹介したいと思います。バスケットボールの練習中に何度もシュートするけど入らなくて、イライラしていたアスリートが、お友達がシュートを成功したのを見ると大喜びして、すっかり落ち着きを取り戻したのです。彼らはたとえ自分がメダルを取れなくても、それはそれでとても悔しがるのですが、一方でチームメートが金メダルを取るのを見ると自分のことのように心から喜べる人達なのです。人の幸せを自分の幸せと同じように思え、一緒に心から喜べるというのは、人間として一番大切な事ですが、解ってはいても実際にはなかなか難しい事です。いろいろな場面で彼らのこうした純粋さを目の当たりにすると、とても感動しますし、人間にとって大切なことを教えられます。

─ 純粋なんですね。

三井 アスリート達は突然違った予定を入れることには抵抗がありますが、例えば「日曜日の10時は田町でボウリング」と決めたら、必ず決まった時間に練習に来ます。強いこだわりがある分、途中で投げ出す事はありません。あきらめないで練習を積み重ね、時間はかかりますが、必ず少しずつ上達していくのです。真に彼らは「継続は力なり」を、身を以て証明してくれています。彼らほど我慢強い人達はあまりいないでしょう。

─ その待つことが、難しいんでしょうね。

三井 そうですね。つい待てずに手や口を出したくなりますからね。でもこの事はアスリートに対してだけでなく、全ての子どもたちを育てていく上での基本だと思います。今は全てが「より早く、より多く」を求めがちですが、アスリートからゆっくりでも良い、途中で投げ出さないで最後まで頑張るという小さな事の積み重ねがあれば、必ず何か大きな成果をもたらすのだという、とても大切なことを学ばせてもらっています。

 先程、SOの未来は明るいと申し上げましたのは、2019年にSO日本が設立25周年を迎えようとしている今、設立当時から見て、社会の意識も行政も、もちろんまだまだの所はありますが、確実に良い方向に進んでいる実感があるからです。SOでは、今後アスリートとボランティアがチームメートとして1つのチームを作り、試合をするユニファイドスポーツというプログラムを推進して行こうとしていますが、これはインクルージョンの社会を目指すうえで、とても効果的なプログラムです。知的障害のある人とない人が1つのチームで、チームメートとして練習に励み、試合を戦うことで、より深い理解と連帯感をお互いに持ちます。強い友情を育み、負けて共に悔しがり、勝って共に喜ぶ。そこには支援をする人、してもらう人という垣根がありません。SOではアスリートであっても、競技レベルが上がればボランティアコーチとしてSOを支えています。支援する人と支援を受ける人という関係ではなく、全ての人がお互いに出来る事を出し合って、支え合っていくという関係をあらゆる場面でつくっていければ、それだけでもSOの未来だけではなく、世界の未来は明るいと言えるのではないでしょうか。

─ たくさんのいいお話し、ありがとうございました。


インタビュア:小川朗(スポーツジャーナリスト)