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インタビュー

シカゴカップ 日本選手団合宿

サッカー漬けの共同生活がチームメイトとの距離を縮めていく――。 ゴールデンウィーク後半の5月4日から6日までの3日間、7月に行われる「2018年スペシャルオリンピックス ユニファイドフットボールカップ・シカゴ presented by TOYOTA(以下、シカゴカップ)」に派遣される日本選手団の合宿練習がトヨタスポーツセンター(愛知県豊田市)で行われた。この合宿で日本選手団にどのような変化があったのだろうか。


名古屋グランパスU-18が教えてくれたこと

日本選手団は、知的障害のあるアスリート(以下、A)9名と知的障害のないパートナー(以下、P)7名、合わせて16名の選手に、団長ら4名のチームスタッフを加えた20名から成る。福島県郡山市から新幹線を乗り継いでやってきたが、疲れはみじんも感じさせない。どの顔からもこの合宿で実力をアップさせたいという意欲が見える。

初日には名古屋グランパスU-18との練習試合が組まれた。今大会の日本選手団のパートナークラブ・名古屋グランパスの協力で、「Jリーガーの卵たち」の胸を借りる。世代別日本代表も何人かいるという強豪。当然、実力は釣り合わない。しかし、強い相手と戦うことで、シカゴカップに向けての課題を浮き彫りにすることができる。願ってもない機会だ。

20分ハーフの前半は、キックオフ直後からグランパスが試合を支配。パワー、スピード、テクニック、すべての面で日本選手団を圧倒する。フィールドを広く使い、自由自在にパスを回すグランパスとは対称的に、日本選手団のパスはほとんど通らない。

グランパスのシュートラッシュに決してひるまない向こうっ気の強さを見せたのがGK大内翔太(P)。チームたったひとりのGKは、常に大きな声でみんなにポジション指示を与え、パートナーとしてアスリートを鼓舞しつづけていた。

後半に入ってもグランパスの絶対的優位は変わらない。しかし、日本選手団も徐々に適応を見せはじめる。強い相手に慣れてきたのもあるだろう。粘り強いディフェンスでボールを奪い、スピードのあるアスリートの谷田部裕二(A)と伊藤聖矢(A)にサイドを走らせる。声を掛けてチームとして狙いを定めていく姿勢は見えたが、シュートを打つところまではいけないのが現実だった。

グランパスU-18との試合中、日本選手団笹山清美ヘッドコーチは「サンキュー」という言葉を選手に掛けつづけた。「鯉太郎サンキュー!」「克規サンキュー!」「荒井君サンキュー! ナイスディフェンス」といった具合だ。
「苦しいときに戻ってきて献身的なディフェンスをしてくれたり、ボールが来るのを信じてカウンターに走ってくれた選手には、自然に『サンキュー』と言っています。誰も見てないところで頑張っているのを見逃さないで、拾ってあげられるように」 笹山ヘッドコーチの目はいつも優しい。

練習試合の前後半が終わり、ラストの20分は、グランパス、日本選手団ともに2つに分け、混成チームをふたつ作って競う「エキシビションマッチ」。この試合にグランパスU-18からのメッセージが込められていた。気後れしたような日本選手団の面々に気さくに接し、大きな声でどんどん呼びかけ、走らせ、パスを出した。声で、表情で、そして全身の動きで、サッカーをエンジョイしていることを表現した。それに促されるように古川楓(A)がゴールを決めた。
グランパスU-18は、日本選手団に足りないものを教えてくれた。

橋本直樹の一発ギャグでみんなが笑顔になった瞬間

夢のような体験

練習が終わった後もサッカー漬けの日程は終わらない。この後、選手たちに用意されていたのは、名古屋グランパスからの「サプライズツアー」だった。トップチームの選手たちが使う天然芝の練習場に入れてもらい、本物のピッチの感触を味わった。さらに2016年に新しくなったクラブハウスを端から端まで案内してもらった。選手たちのシューズが保管されている部屋、ロッカールーム、トレーニングルーム……あこがれのJリーガーが過ごす空間にいる。これには選手たちはもとより、コーチやスタッフも大興奮だった。

さらに、クラブハウス内セミナールームで管理栄養士による「食育セミナー」を受講。シカゴカップの前、当日の食事についてなど、貴重な情報を得た。

名前を呼び合ってチームになる

合宿2日目。朝の練習は全員で円陣を組み、大きな声を出して始まった。選手たちの表情も、前日よりやわらかい。パス回しやリフティングといった練習メニューでは、明るく大きな声が飛んでいる。 午前中はSON・愛知とFID(※)との混成チームとの練習試合が組まれた。試合開始前、スターティングメンバーが円陣を組んで気合いの声をあげた。全員が1歩、足を踏みならしながら一斉に叫んだ声は、大迫力の響きだった。
(※) FID:FID FOOTBALL AICHI  愛知県知的障がい者サッカー連盟

もちろん相手が違うため単純に比較できないが、試合内容も一変していた。GK大内の声だけが響いていた前日とはうって変わって、たくさんの選手たちの声が聞こえる。
「ヤタ(谷田部)走れ!」「エンツカ(遠藤宰)前へ!」「クロ(黒羽吏)、サンキュー!」選手たちがお互いをニックネームで呼び合う。絶えず誰かが誰かの名前を叫んでいる。
名前を呼ぶ声が行き交うのに比例してパスも通っていく。支配したボールが選手たちの足から足へと回っていく。黒羽光(P)のゴール。続いて峰島和哉(P)も得点。グランパス相手では遠かったゴールが、次々と決まっていく。

もっとできることがあるはず

SON・愛知とFIDの混成チームとの試合後、橋本亮汰(P)にチームに何があったのかを聞いてみた。
「昨日の夜、全体ミーティングの後、パートナーだけのミーティングもやって、もっと試合中のコミュニケーションをよくするにはどうしたらいいかを話し合いました。何かもっとできることがあるんじゃないかと。それで、練習の入りから大きな声を出していくことで、勢いをつけて声を出しやすくしようと。とてもいい感じにできて、試合中もポジションやパスコースの指示ができていました。やっぱり声は大事ですね」

全体ミーティングでは、岩沼聡一朗団長の発案で体を使ったゲームをやって、選手同士がよりうち解けたという。「同じ釜の飯を食う」ことに加え、こうした工夫も実を結んだようだ。

笹山ヘッドコーチにもSON・愛知とFIDの混成チームとの練習試合を振り返ってもらった。
「声も良く出ていたし、アスリートとパートナーの間でボールもよく回っていたので、昨日より内容としてははるかに良かったです。ミーティングで役割の確認、とくにパートナーがどうやってアスリートに伝えていくかを考えました。伝え方もありますが、それより『要求する』ことが大事なんです。まだまだどこかで遠慮していたんですね。今日はその遠慮が少しずつなくなってきたという実感がありました。チームらしくなってきたんじゃないでしょうか。課題は、まだパートナーが『甘い』。力を出し切れてないです。もっと殻を破れるように、一皮むけられるように持っていきたいですね」

「ユニファイド」であることを忘れてしまうようなチームになればいい。この合宿がそのきっかけになるだろう。

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